ソフトウェア特許が認められるための要件
1.ソフトウェア特許が認められるための要件とは?
開発したソフトウェアやアプリの発明が、特許として認められるための要件(条件)とはなんでしょうか。ここでは、ソフトウェア特許が認められるための主な要件について、ご説明いたします。
特許が認められるために必要な要件は、実は、たくさんあります。
特許法では、
発明であること(特許法第29条第1項柱書)、
産業上の利用可能性(特許法第29条第1項柱書)、
新規性(特許法第29条第1項第1~3号)、
進歩性(特許法第29条第2項)
先願であること(特許法第29条の2、第39条)
実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)
サポート要件(特許法第36条第6項第1号)
明確性要件(特許法第36条第6項第2号)
発明の単一性(特許法第37条)
などが、特許が認められるための要件として定められています。
もちろん、これらすべての要件をクリアーしなければ、特許は認められないのですが、これらの中でも、ソフトウェア関連発明について、主に問題となる要件は、発明であること、新規性、進歩性です。
以下、ソフトウェア特許が認められるための主な要件である、発明であること、新規性、進歩性について、ご説明いたします。
2.発明であること
特許法第2条第1項では、「「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定されています。
そして、特許庁の発行する特許・実用新案審査基準の第III部「特許要件」第1章「発明該当性及び産業上の利用可能性」によれば、下記の(i)から(v)までのいずれかの場合は、自然法則を利用したものとはいえず、「発明」に該当しない旨が規定されています。
(i) 自然法則以外の法則(例:経済法則)
(ii) 人為的な取決め(例:ゲームのルールそれ自体)
(iii) 数学上の公式
(iv) 人間の精神活動
(v) 上記(i)から(iv)までのみを利用しているもの(例:ビジネスを行う方法それ自体)
ですからゲームアプリなどで、ゲームのルールそのものや、数学の公式などは、自然方法を利用したものではなく、特許法上の「発明」ではない、ということになります。「発明」ではありませんので、特許も認められません。
それでは、どのようなものが発明として認められるのでしょうか。
特許・実用新案審査基準によれば、ソフトウェア関連分野において、「発明」であると認められるためには、ソフトウェアによる情報処理が、 ハードウェアを用いて具体的に実現されていることが必要となります。
例えば、以下のような例を考えてみます。
【請求項1】
数式y=F(x)において、a≦x≦bの範囲のyの最小値を求めるコンピュータ。
この場合、ソフトウェアによる情報処理(yの最小値を求める処理)が、ハードウェア資源により具体的に実現されているとは、言えません。この請求項1の記載からは、コンピュータがどのような演算を行っているのかを、具体的に把握できないからです。
次に、以下のような例を考えてみます。
【請求項1】
数式y=F(x)において、a≦x≦bの範囲のyの最小値を求めるコンピュータ装置であって、aからbまでの範囲で、非連続に所定の値ずつ変化させることで、複数のxの値を抽出する手段と、抽出されたxの値をもとに、前記数式により、複数のyの値を算出する手段と、算出された複数のyの値から最も小さい値を特定する手段とを備えるコンピュータ装置。
この例では、ソフトウェアによる情報処理(yの最小値を求める処理)が、ハードウェア資源(コンピュータ装置)により具体的に実現されていると、いうことができます。
最初の例と違う点は、請求項1を読めば、yの最小値を求めるために、どのような演算を行っているのかを具体的に把握することができる点です。
このように、入力されたデータが演算される手順が具体化されていること、プログラムによる処理がハードウェア資源(コンピュータ装置、CPU、メモリ等)により実現されていること、の2つの条件が満たされていれば、特許法上の発明に該当すると考えることができます。
3.新規性について
それでは、新規性とは、一体何でしょうか。
新規性とは、発明がこれまで世の中になかったものであること、を言います。
特許法第29条1項では、以下のように記載されています。
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明
又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
特許出願よりも前にすでに、世の中に知られてしまった発明や、実施された発明は、新規性を有しないとして、特許は認めらません。
例えば、特許出願をするよりも、特許を取得したいと考えているソフトウェアやアプリをインターネット上で公開した場合は、新規性が失われることになります。また、ソフトウェアやアプリの内容が、雑誌や新聞等で公開されてしまった場合も、新規性が失われることになります。
ところで、日本の特許制度では、特許を出願してから1年6か月が経過すると、その出願の内容がすべて公開されます。
自社の発明と同じ内容の発明について、他社が先に特許出願をし、その内容が公開された後に、自社で特許出願をした場合は、自社の発明は新規性がないと判断されます。
4.進歩性について
また、仮に、新規性を有する発明であったとしても、進歩性を有する発明でなければ、特許は認められません。
特許法第29条2項では、進歩性について、以下のように記載されています。
特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
つまり、すでに公然と知られた発明等に基づいて、その業界の知識を有する人(当業者といいます)が、容易に発明をすることができたと判断される場合は、進歩性が否定されます。
(1)進歩性が認められない場合
例えば、今まで人が手作業でやっていたことを、コンピュータで自動的に行うようにした場合は、どうでしょうか。従来は、人が卓上の電子計算機を利用して計算をし、その計算の結果を書類に手書きで記入していたことを、コンピュータで自動的に実施できるようにしたとします。
残念ながら、このような人が手作業で行っていることをコンピュータに実行させただけの場合は、進歩性が認められる可能性はほとんどないと思われます。
それでは、他の業界で行っていることを、自社の業界で行うようにした場合はどうでしょうか。
例えば、レストラン検索アプリで採用されている機能を、ホテル検索アプリに転用した場合です。
残念ながら、あるソフトウェアやアプリで採用されている機能を、単に、他の用途のソフトウェアやアプリに転用したような発明については、進歩性は認められません。
(2)用途や業界に特有の工夫
どうすれば、ソフトウェア特許について進歩性は認められるのでしょうか。
進歩性が認められるためには、従来に比べて、発明が優れた効果を有することが必要となります。
上記の例で、ホテル検索用アプリについて特許出願をするような場合に、他の業界の検索用アプリ(例えばレストラン検索用アプリ)では必要ではないけれど、ホテル検索用アプリだからこそ必要になるような機能はないでしょうか。
例えば、ホテル検索用アプリにおいて特有の課題があって、その課題を解決できるような機能があれば、優れた効果を有するものであるとして、進歩性が認められる可能性がでてきます。
つまり、その用途や業界だからこそ必要になるような技術的な工夫や、その用途や業界に特有の課題を解決するような技術的な工夫があれば、進歩性が認められる可能性があります。
(3)入力・演算・出力についての工夫
ところで、ソフトウェアやアプリ等のプログラムは、通常、入力・演算・出力の処理から構成されています。
つまり、コンピュータは、入力されたデータをもとに、所定の演算が行われ、その結果が画面や音声として出力するものです。この入力・演算・出力の処理のいずれかについての工夫があれば、発明が優れた効果を有するとして、進歩性が認められる可能性があります。
例えば、求人のマッチングサイトで、ユーザの属性だけでなく、ユーザの過去のサイトの閲覧履歴をもとに応募先の企業のレコメンドを行うようなシステムを考えついた場合、この閲覧履歴という「入力」の工夫により、レコメンドされる企業という「出力」が、よりユーザに適したものとなる、という効果を発揮します。
皆さんが開発をされたソフトウェアやアプリにも、入力・演算・出力のどれかに、或いは、全部に工夫があるかと思います。そういった工夫があれば、是非、ソフトウェア特許を検討してみてください。
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