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ソフトウェア特許の知識

ユニクロのセルフレジについての特許侵害訴訟

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1.ユニクロのセルフレジについて、特許権の侵害訴訟が提起

2019年9月24日、ユニクロを運営する株式会社ファーストリテイリング(以下、ファーストリテイリング社)を相手取り、株式会社アスタリスク(以下、アスタリスク社)が、東京地裁に、特許権侵害行為差し止めの仮処分を申立てたとの報道がされています。

 

ユニクロのセルフレジは、レジに商品を置くだけで会計ができるというものです。商品ごとにRFIDタグが取り付けられており、複数の商品が入ったカゴをレジの所定の場所に置くと、RFIDタグが読み取られ、商品と購入額が特定される、というものです。

 

報道によると、アスタリスク社は、ファーストリテイリング社と9か月間、特許のライセンス契約について交渉を続けたそうですが、契約の締結にいたらなかったそうです。

アスタリスク社は、特許第6469758号(発明の名称:読取装置及び情報提供システム)をはじめとして、複数の特許を取得しています。特許第6469758号をもとにして、複数の分割出願を行っており、さらに、特許6518848号(第1世代)、特許第6541143号(第2世代)、特許第6532075号(第2世代)の3件の特許を取得しています。これら4件の特許については、ファーストリテイリング社から無効審判が請求されています。

 

その他、特許第6518848号の分割出願として、特願2019-79934の出願がされています。特願2019-79934については、2020年4月現在、出願審査請求はされていません。おそらく、侵害訴訟や無効審判の経緯をみながら、必要に応じて、請求項を補正して、出願審査請求をしよう、という戦術であると思われます。

2.アスタリスク社のセルフレジの特許について

以下、アスタリスク社のセルフレジに関する特許について、ご紹介していきます。

 

[ 1 ] 特許第6469758号

特許第6469758号(発明の名称:読取装置及び情報提供システム)は、2017年5月9日に出願され、2018年11月14日に出願審査請求されるとともに、早期審査の申請がされています。審査の結果、拒絶理由通知が一度通知されたものの、早期審査から2か月後の2019年1月15日に特許査定がだされています。そして、2019年1月25日に特許の登録がされています。

 

一方で、2019年5月22日に無効審判が請求されています。さらに、2019年8月6日に特許異議が申立てられ、さらに8月9日にも特許異議の申立てがされています。また、2019年10月8日にも無効審判が請求されています。無効審判はファーストリテイリング社から請求され、特許異議の申立ては株式会社エフテクトから申立てられています。なお、株式会社エフテクトのHPを確認すると、取引先として、ファーストリテイリング社が挙がっています。

 

以下、特許第6469758号の請求項です。

 

【請求項1】

物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、

前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、

前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、

を備え、

前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする読取装置。

 

請求項1は、以下が主な構成要素となっています。

 

  • 物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置。
  • 読取装置には、シールド部が備えられている。
  • シールド部には、アンテナが収容されており、上向きに開口されている。

 

請求項1の読取装置が、ユニクロのセルフレジに相当するものです。

ここでは、独立請求項のみを示していますが、他に請求項2~4が従属請求項として存在しています。

 

近年、店舗における会計をスムーズに行うために、会計カウンター上に商品の入った買い物カゴを置き、商品に付されたRFタグを読み取って会計を行うセルフレジが検討されています。しかし、このような方法の場合、隣のセルフレジのリーダライタから放出される電波から干渉を受けるなどの問題がありました。

 

このような電波の干渉を防ぐために、筐体に商品を収容してフタをして、RFタグを読み取ることも提案されていますが、この方法では、フタの開け閉めに手間がかかる、という問題があります。

 

本件特許は、非常に単純ながらも、シールド部の上側に開口部を設けることで、電波の干渉を防ぎつつ、フタの開け閉めの手間をかけずに、会計を行うことができるものです。

[ 2 ] 特許第6518848号

特許第6518848号(発明の名称:読取装置及び情報提供システム)は、特許第6469758号の分割出願です。2019年1月16日に出願がされ、2019年4月26日に特許の登録がされています。分割出願がなされた1月16日は、親出願である特許第6469758号について、特許査定がだされた次の日ですから、親出願の特許査定がだされてから、すぐに分割出願がされていることがわかります。

本特許についても、ファーストリテイリング社から無効審判がされています。

 

【請求項1】

物品に付されたRFタグから情報を読み取る読取装置であって、

前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、

前記アンテナを収容し、前記物品よりも広い開口が形成されたシールド部と、

を備え、

前記シールド部が開口した状態で前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする読取装置。

 

特許第6518848号の請求項1は、以下が主な構成要素となっています。

 

  • 物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置。
  • 読取装置には、シールド部が備えられている。
  • シールド部には、アンテナが収容されており、開口されている。

 

特許第6469758号(第0世代)の請求項1は、シールドが上向きに開口されていることが要件になっているのに対し、特許第6518848号の請求項1は、開口部分の向きについては限定されておらず、特許第6518848号の方がより権利範囲の広い特許であるといえそうです。

 

[ 3 ] 特許第6541143号

特許第6541143号(発明の名称:読取装置及び情報提供システム)は、特許第6518848号(第1世代)の分割出願です。そして、2019年6月21日に特許の登録がされています。本特許についても、ファーストリテイリング社から無効審判がされています。

 

【請求項1】

物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、

前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、

前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、

を備え、

前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取り、

前記シールド部は、前記電波を吸収する電波吸収層と前記電波を反射させる電波反射層のいずれか一方または両方を含むことを特徴とする、読取装置。

【請求項2】

物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、

 前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、

 前記アンテナを収容するシールド部と、

を有し、

前記シールド部は上向きに開口した状態で前記物品を入れた買物カゴを包囲可能且つ出し入れ可能に構成されており、当該状態が維持されたままで前記読み取りが行われ、

前記シールド部は、前記電波を吸収する電波吸収層と前記電波を反射させる電波反射層のいずれか一方または両方を含むことを特徴とする、読取装置。

【請求項3】

物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置と、

前記情報に基づいて前記物品に関する情報を表示するタブレット端末と、

を備え、

前記読取装置は、

 前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、

 前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、

を有し、

 前記読取装置は、前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする、情報提供システム。

【請求項4】

物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置と、

前記情報に基づいて前記物品に関する情報を表示するモバイル端末と、

を備え、

前記読取装置は、

 前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、

 前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、

を有し、

 前記読取装置は、前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする、情報提供システム。

【請求項5】

物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置と、

前記情報に基づいて前記物品に関する情報を表示するタブレット端末と、

を備え、

前記読取装置は、

 前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、

 前記アンテナを収容するシールド部と、

を有し、

前記シールド部は上向きに開口した状態で前記物品を入れた買物カゴを包囲可能且つ出し入れ可能に構成されており、当該状態が維持されたままで前記読み取りが行われることを特徴とする、情報提供システム。

【請求項6】

物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置と、

前記情報に基づいて前記物品に関する情報を表示するモバイル端末と、

を備え、

前記読取装置は、

 前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、

 前記アンテナを収容するシールド部と、

を有し、

前記シールド部は上向きに開口した状態で前記物品を入れた買物カゴを包囲可能且つ出し入れ可能に構成されており、当該状態が維持されたままで前記読み取りが行われることを特徴とする、情報提供システム。

特許第6541143号の請求項1、2は、シールド部が電波吸収層又は電波反射層を含むことで限定されています。特許第6541143号の請求項3~6は、タブレット端末・モバイル端末に物品に関する情報を表示することで限定されています。

つまり、特許第6541143号の請求項1~6は、特許第6469758号(第0世代)の請求項1よりも下位の概念となっています。そのため、特許第6469758号(第0世代)を無効にするよりも、特許第6541143号を無効にする方が、ハードルが高いと言えるかもしれません。

[ 4 ] 特許第6532075号

特許第6532075号(発明の名称:読取装置及び情報提供システム)は、特許第6518848号(第1世代)の分割出願です。そして、2019年5月31日に特許の登録がされています。本特許についても、ファーストリテイリング社から無効審判がされています。

 

【請求項1】

物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、

 前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、

 前記アンテナを収容し、上向きに開口したシールド部と、

 前記シールド部の前記開口の上側に設けられ、前記物品が載置される載置部と、

を備え、

前記物品が前記載置部に載置された状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする、読取装置。

【請求項2】

物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、

 前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、

 前記アンテナを収容し、上向きに開口したシールド部と、

 前記シールド部の前記開口の上側に設けられ、前記物品を収容する買物カゴが載置される載置部と、

を備え、

前記買物カゴが前記載置部に載置された状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする、読取装置。

特許第6532075号の請求項1、2はともに、物品・買物カゴを載置部に載置することで限定されており、特許第6469758号(第0世代)の請求項1よりも下位の概念となっています。そのため、特許第6469758号(第0世代)を無効にするよりも、特許第6532075号を無効にする方が、ハードルが高いと言えるかもしれません。

3.まとめ

アスタリスク社のセルフレジに関する特許のように、1つの特許出願をもとに複数の分割出願をして、複数の特許を取得するのは、有効な戦術です。仮にこれらのうちの1つの特許が無効にされたとしても、すべての特許を無効にしなければ、ファーストリテイリング社としては、セルフレジについて特許権侵害を回避できない可能性があります。

 

また、出願審査請求もされていない特許出願が残っていることも、ファーストリテイリング社にとっては脅威だと言えます。

 

訴訟の経緯を追っていかなければ正確なことはわかりませんが、現在のユニクロのセルフレジが、アスタリスク社の特許の技術的範囲を回避するのは、なかなかに難しいかもしれません。ファーストリテイリング社が請求した無効審判が認められるか否か、訴訟の行方がかかっていると、言えそうです。

4.その後の経緯

アスタリスク社の特許第6469758号について請求されていた無効審判について、2020年6月に審決の予告が出されたようです。

 

この無効審判では、請求項にかかる発明が、新規性・進歩性を有しないこと、明確性を有しないことが請求の理由として挙げられています。アスタリスク社は、これに対抗するため、請求項を以下のように訂正していました。波線の箇所が、訂正により新たに追加した箇所です。

 

【請求項1】

 物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、

 前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、

 上向きに開口した筺体内に設けられ、前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、

を備え、

 前記筺体および前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする読取装置。

 【請求項2】

 前記アンテナよりも前記開口側に配されて、前記物品が載置される載置部

を備えた請求項1に記載の読取装置。

 【請求項3】

 前記シールド部は、

  前記電波を吸収する電波吸収層と、

  前記電波吸収層の外側に形成され、前記電波を反射させる電波反射層と、を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の読取装置。

 【請求項4】

 請求項1~請求項3のいずれかに記載の読取装置と、

 前記読取装置と通信可能な情報提供装置と、

 を備え、

 前記情報提供装置は、

  前記物品に関する物品情報を前記RFタグの情報に対応付けて記憶する記憶部と、

  前記読取装置から前記RFタグの情報を取得する取得部と、

  取得した前記RFタグの情報に対応する前記物品情報を前記記憶部から抽出して提供すべき情報を生成する情報生成部と、

  生成された前記提供すべき情報を出力する出力部と、

を備える情報提供システム。」

審決の予告によると、無効審判の請求人であるファーストリテイリング社が提出した甲第1号証(米国特許第9245162号明細書)をもとに、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、又は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、と判断されています。

 

つまり、請求項1は新規性・進歩性を有しないため、無効にすべきとの判断になります。請求項2及び請求項4についても同様です。

 

一方で、請求項3に係る発明については、無効理由を有しないと判断されています。

 

請求項3の「前記シールド部は、前記電波を吸収する電波吸収層と、前記電波吸収層の外側に形成され、前記電波を反射させる電波反射層と、を備える」という構成は、甲第1号証だけでなく、ファーストリテイリング社により提出された他の証拠にも記載されていないようです。

また、審判官は、甲第1号証において「前記シールド部は、前記電波を吸収する電波吸収層と、前記電波吸収層の外側に形成され、前記電波を反射させる電波反射層と、を備える」を採用することには、阻害要因があるとも述べています。つまり、甲第1号証には、請求項3に係る発明と同じ構成の発明を発想することを阻害する要因があるため、甲第1号証から請求項3に係る発明へ想い到るには、相当な困難性がある、と審判官は判断しているようです。

 

さらに、審判官は、甲第1号証において、この構成を仮に採用したとしても、請求項3に係る発明とは同じ発明には到らないとも述べています。

 

今後、無効審判の審決が出されるでしょう。

無効審判の結果に不服がある場合は、知的財産高等裁判所において争うことも可能ですが、この無効審判において提出された証拠だけで、請求項3に係る発明の進歩性を否定して無効とするのは難しいと思われます。

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