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ビジネスモデル特許の知識

ビジネスモデル特許が認められるためには?

ビジネスモデル特許(ビジネス関連発明)とは、ビジネスモデルを実施する際の技術的な工夫についての特許です。1998年の米国最高裁のステートストリートバンク事件において「ビジネス方法であるからといって直ちに特許にならないとは言えない」ことが判示されたことをきっかけに、日本でもビジネスモデル特許が注目を浴びるようになりました。

 

ビジネス方法は、発明とは認められず、特許法上の保護の対象ではありません。そのため、今までにない新しいビジネスの方法(つまり、ビジネスモデル)を考え付いたとしても、特許を取得することはできませんので、注意が必要です。

 

例えば、ピザの宅配ビジネスで、注文をしてから30分以内に届けられなければ、ピザを無料にする、というビジネスモデルそのものは、特許にはなりません。

 

それでは、どのような場合に、ビジネスモデル特許は認められるのでしょうか。

 

ビジネスモデル特許は、ビジネス方法に関する特許を意味するものですが、一般的には、コンピュータ装置やインターネットを活用して、新しいビジネスモデルを実現したものを指します。具体例としては、例えば、インターネットを活用した電子商取引や第三者間のマッチングに関するビジネス方法などが考えられます。その他、ビジネスモデル特許として有名なものとしては、アマゾン社のワンクリック特許などがあります。

ビジネスモデル特許の具体例については、「ビジネスモデル特許の事例」 をご参照ください。

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1.ビジネスモデル特許が認められる要件とは?

考えついたビジネスについてのアイデアや工夫が、ビジネスモデル特許として認められるための要件とはなんでしょうか。考えついたアイデアが特許として認められるものか、ご不安に思われている方もいらっしゃるかと思います。ここでは、ビジネスモデル特許が認められるための主な要件について、ご説明いたします。

 

特許が認められるための要件は、実は、たくさんあります。

 

特許法では、

  • 発明であること(特許法第29条第1項柱書)、
  • 産業上の利用可能性(特許法第29条第1項柱書)、
  • 新規性(特許法第29条第1項第1~3号)、
  • 進歩性(特許法第29条第2項)
  • 先願であること(特許法第29条の2、第39条)

 

などが、特許として認められるための要件として定められています。

もちろん、審査においてこれらすべての要件をクリアーしなければ、特許は認められないのですが、この中でも、ビジネスモデル特許について、主に問題となる要件は、発明であること、新規性を有すること、進歩性を有することです。

2.発明であること

特許法第2条第1項では、「「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定されています。

 

そして、特許庁の発行する特許・実用新案審査基準の第III部「特許要件」第1章「発明該当性及び産業上の利用可能性」によれば、下記の(i)から(v)までのいずれかの場合は、自然法則を利用したものとはいえず、「発明」に該当しない旨が規定されています。

 

(i) 自然法則以外の法則(例:経済法則)

(ii) 人為的な取決め(例:ゲームのルールそれ自体)

(iii) 数学上の公式

(iv) 人間の精神活動

(v) 上記(i)から(iv)までのみを利用しているもの(例:ビジネスを行う方法それ自体)

 

つまり、ビジネス方法(ビジネスモデル)そのものは、自然方法を利用したものではなく、特許法上の「発明」ではない、ということになります。「発明」ではありませんので、特許権による保護の対象外になります。ビジネスモデルそのものに特許という権利を付与することは、特許制度の目的である産業の発達をかえって阻害することにつながります。

 

ですから、上でも説明したように、ピザの宅配ビジネスで、注文をしてから30分以内に届けられなければ、ピザを無料にする、というビジネスモデルそのものは、特許にはなりません。

それでは、どのようなものが発明として認められるのでしょうか。

 

ビジネスモデル特許といえば、その多くがコンピュータやインターネットを活用したものです。特許・実用新案審査基準では、ビジネス用コンピュータソフトウェアのように、全体としてみると、コンピュータソフトウェアを利用するものとして創作されたものは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する可能性があると記載されています。

 

つまり、ビジネスモデルを実現するために利用される、ビジネス用コンピュータソフトウェアやビジネス用コンピュータシステムであれば、発明として認められる、ということになります。

ピザの宅配の場合を例に挙げてみます。

 

ユーザはインターネットを利用して、ピザの注文を行います。そしてピザの宅配を完了した時に、配達員が宅配を完了したことをスマートフォンに入力すると、注文をしてから宅配が完了するまでの時間が、サーバにて計算されます。宅配が完了されるまでに30分以上の時間が経過している場合は、一枚分のピザの無料コードが、ユーザの端末に通知されます。ユーザは、次回注文時に、このコードを入力すると、無料でピザを注文することができます。

 

このようなシステムであれば、新規なビジネスモデルを実現するために利用されるコンピュータシステムと言えますので、発明として認められます。

3.新規性について

新規性とは、一体何でしょうか。

 

新規性とは、発明がこれまで世の中になかったものであること、を言います。

 

特許法第29条1項では、以下のように記載されています。

 

産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。

 

一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明

二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明

三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明

 

特許出願よりも前にすでに、世の中に知られてしまった発明や、実施された発明は、新規性を有しないとして、特許は認めらません。それは、ビジネスモデル特許も例外ではありません。

例えば、特許出願をするよりも、特許を取得したいと考えているソフトウェアをリリースして、サービスの提供を開始した場合は、新規性が失われることになります。また、発明の内容が、雑誌や新聞、インターネットで公開されてしまった場合も、新規性が失われることになります。ですから、ビジネスモデル特許について特許出願をする前に、インターネットや雑誌などで、発明の内容がわかる程度に、自社のサービスについて公表してしまった場合は、新規性が失われてしまいます。

 

特許庁の審査において、新規性がないと判断されるのに、もっとも多いケースとしては、すでに、同じ内容の特許出願がされている場合です。特許を出願してから1年6か月が経過すると、その出願の内容がすべて公開されます。他社が特許を出願して、その内容が公開された場合に、自社の発明と同じ内容のものが記載されていれば、自社の発明は、新規性がないと判断されることになります。

4.進歩性について

ビジネスモデル特許を取得するのに必要なのは、新規性だけではありません。仮に、新規性を有する発明であったとしても、進歩性を有するものでなければ、特許は認められません。それでは、進歩性とは、何でしょうか。

 

特許法第29条2項では、以下のように記載されています。

 

特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。

ここで、「前項各号に掲げる発明」とは、新規性を有しない公然と知られた発明や公然と実施された発明等をさすものです。

 

つまり、特許法第29条第2項では、すでに公然と知られた発明等に基づいて、その業界の知識を有する人(当業者といいます)が、容易に発明をすることができたときは、その発明については、特許を受けることができない旨が定められています。

 

 

ただ、どのようなものが容易に考えつくことができ、どのようなものが容易に考えつくことができないものであるかの判断は、非常に難しいもので、専門家でも判断が分かれる場合があります。

(1)進歩性が認められない場合

それでは、今まで人が手作業でやっていたことを、コンピュータで自動的に行うようにした場合は、どうでしょうか。

 

例えば、従来は、人が卓上の電子計算機を利用して計算をし、その計算の結果を書類に手書きで記入していたことを、コンピュータで自動的に実施できるようにしたとします。

 

残念ながら、このような人が手作業で行っていることをコンピュータに実行させただけの発明は、進歩性が認められる可能性はほとんどないと思われます。

 

 

それでは、他の業界で行っていることを、自社の業界で行うようにした場合はどうでしょうか。

 

例えば、求人採用の業界において、求人に応募する方の属性と、それぞれの企業が応募者に求める基準とをもとに、それぞれ企業にあった方を自動的にピックアップするようなマッチングシステムが存在していたとします。この求人採用のマッチングシステムを、派遣業界用のマッチングシステムに転用したものは、ビジネスモデル特許として進歩性が認められるでしょうか。

 

残念ながら、ある業界で利用されているシステムを、単に、別の業界に転用したような発明については、進歩性は認められません。

(2)用途や業界に特有の工夫

では、どうすれば、ビジネスモデル特許について、進歩性は認められるのでしょうか。進歩性が認められるためには、従来に比べて、発明が優れた効果を有することが大切です。

 

求人採用のマッチングシステムでは必要ではないけれど、派遣用のマッチングシステムだからこそ必要になるような機能はないでしょうか。

例えば、派遣業界の特有の課題があって、その課題を解決できるような機能やプログラムの処理があれば、優れた効果を有するものであるとして、進歩性が認められる可能性がでてきます。

 

つまり、他の業界で同じようなシステムやプログラムが存在する場合でも、その用途や業界だからこそ必要になるような特徴的な機能や、その用途や業界に特有の課題を解決できるような特徴的な機能があれば、進歩性が認められる可能性があります。

(3)入力・演算・出力についての工夫

ビジネスモデル特許は、多くの場合、ビジネスモデルを実行するためのIT技術についての工夫であることをご説明しました。

 

ところで、コンピュータプログラムは、通常、入力・演算・出力の3つの要素から構成されています。つまり、コンピュータは、入力されたデータをもとに、所定の演算が行われ、その結果が画面や音声として出力するものです。この入力・演算・出力の3つの要素のうちのいずれかの要素についての特徴的な工夫があれば、発明が優れた効果を有するとして、進歩性が認められる可能性があります。

例えば、タッチパネルを使って文字入力する場合に、従来は、何度もタッチ入力が何度も必要なものを、簡単に入力できるようにした場合は、入力の工夫と言えます。

 

その他、演算に用いるデータ(入力されるデータ)を工夫することで、従来は得られなかったような演算の結果、つまり出力が得られるのであれば、それは「入力」についての工夫となります。求人のマッチングサイトで、ユーザの属性だけでなく、ユーザの過去のサイトの閲覧履歴をもとに応募先の企業のレコメンドを行うようなシステムを考えついた場合、この閲覧履歴という「入力」の工夫により、レコメンドされる企業という「出力」が、よりユーザに適したものとなります。

 

例えば、表示画面に多くの情報を表示する場合でも、その情報のレイアウトを工夫したり、情報の一部をアイコン等で表示するなどの工夫をすることで、ユーザが見づらくならないように表示できれば、それは出力の工夫となります。

(4)すでに世の中にあるものの組み合わせ

また、すでに世の中にあるものを、複数、組み合わせただけでは、進歩性が認められません。しかし、それを組み合わせることで、相乗効果がでるような場合は、優れた効果があるとして、進歩性を有すると判断されやすくなります。

 

例えば、鉛筆がすでに知られていて、消しゴムもすでに知られているような場合に、消しゴム付き鉛筆を発明したとします。従来は、鉛筆で文字を書いていて、消しゴムを使用するときは、手から鉛筆を離し、消しゴムに持ちかえる必要がありました。そして、消しゴムを使用した後は、手から消しゴムを離し、鉛筆に持ちかえます。しかし、消しゴム付き鉛筆であれば、持ちかえる必要なく、文字を書き、消すことができ、時間を短縮することができます。

つまり、鉛筆と消しゴムを組み合わせることで、相乗効果を有することとなります。このように、すでに世の中にあるものを、複数、組み合わせた場合に、組み合わせることで、何らかの効果が発生するような場合は、進歩性を有すると判断されます。

 

この考え方を、ビジネスモデル特許に応用することで、進歩性のある発明を、是非、生み出してみてください。

5.まとめ

審査において、発明であること、新規性を有すること、進歩性を有することなどの要件を満たすものと判断された場合、ビジネスモデル特許が認められます。ビジネスモデル特許が成立すると、その発明を独占的に実施する権利が付与されるため、競合他社に対して、有利に事業を進めることができます。

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